院長ブログ
2018.10.19
徒然日記
帽子のおじいさん
10年以上前、僕が開業してから数年たった頃の話です。最初に外来に来られたのは今くらいの季節だったでしょうか。
体のかゆみを訴えて外来にやってくる、いつも素敵な格好をしてくるおじいさんがいました。御年80歳。
それはもうおしゃれな方でいつも頭にはソフト帽。下は必ずシャツにネクタイ。冬にはロングコートを着込んで外来にいらっしゃっていました。
格好に似合うとても口数の少ない方でした。毎回症状を尋ねると、「うん、いいよ、いつもの薬で大丈夫」としかおっしゃられなかったです。
しかし時間が経つと人間関係にも潤滑油が生まれるというのでしょうか、あまりおしゃべりではなかった彼も一言、二言とお話ししてくださるようになりました。
冬が過ぎてさらに春もすぎた頃、相変わらず体のかゆみはそれなりにあり、「なかなか治らないねえ」とにこやかにお話しされていたとき、
突如「先生、今日はこれを見てくれないか?」といつもは決して取らないおしゃれなソフト帽を取られたのです。
外来ではいつも帽子をかぶったまま体の診察をしていたものですから帽子をとった姿を拝見したことは初めてでした。
「はい、どうされました?」と頭をのぞくと、そこには赤黒い色をした手のひら大の塊がありました。
(これは…血管肉腫だ…)
にこやかに話をしていた僕は急に黙ってしまいました。そこにあったのは血管肉腫という極めて悪性度の高い腫瘍だったのです。
つとめて冷静に振る舞い、唾を飲み込みながら、「これはいつから?」と尋ねました。
「先生にお世話になった頃からだよ」
僕は言葉も出ませんでした。実はあのおしゃれな帽子はこのことを知られたくなかったから被っていたものだったのです。
彼が頭の症状に気づいたのは僕のところに初めてきた少し前だったそうです。ということはこの体のかゆみはこの悪性腫瘍から。全てに納得が行きました。
なんて言うこと!
初診時に「帽子を取ってください」、とひとこと言っていれば。
唇を噛むほど悔しい気持ちが湧いてきました。
「紹介状を書きますね」とだけ静かに言って大学病院宛の紹介状を書きました。
その後「頭部血管肉腫」との診断だけが大学病院からFAXで帰ってきましたがその後彼がどうなったのかは分かりません。
ただ僕の経験からはあの状態からだと何をやっても余命6ヶ月以内であっただろうと推察できたことは確かです。
その後、帽子をかぶった患者さんには必ず「帽子とってくださいね」と声をかける習慣になりました。
でもあんなにおしゃれな格好で外来にやってくる男性にはあれ以来出会ったことがありません。
帽子をかぶった患者さんを見るたびに大切なことを教えてくださったあのおじいさんのことを思い出します。
患者さんは教科書。
今日もこの言葉を胸に留めつつ診療に邁進したいと思います。
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